短腸症候群(SBS)患者さんの生活や栄養摂取での日々の疑問に、SBSの診療に携わる先生方がお答えいたします。
- 監修:
- 藤田医科大学病院 食養部 係長
管理栄養士/食物栄養学博士/米国栄養サポート臨床師
一丸 智美 先生
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切除した小腸の部位によって、栄養の吸収に違いはありますか?
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小腸は部位によって、吸収する栄養成分が異なることが知られています。患者さんによって小腸の切除部位が異なるため、不足する栄養成分も異なります。
詳しくは、こちらをご覧ください。
特に注意が必要なのは、回腸を切除された方です。回腸末端を60cm以上(成人の場合)切除した場合は、食事やサプリメントに含まれるビタミンB12を十分に吸収することが出来ません。1~3ヵ月に一度、注射で補う必要があります。
また、栄養素ではありませんが、回腸末端を100cm以上(成人の場合)切除されている場合、胆汁酸という脂肪の吸収を助ける働きがある成分を吸収することができません。胆汁酸は腸から吸収したものを再利用していますので、再利用できる胆汁酸が少なくなると脂肪の吸収が悪くなり、脂肪便が出たり、脂溶性ビタミンが不足したりします。
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小腸は部位によって、吸収する栄養成分が異なることが知られています。患者さんによって小腸の切除部位が異なるため、不足する栄養成分も異なります。
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摂取したほうがよい食べ物や栄養素はありますか?
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短腸症候群(SBS)では、状態が安定していても食べた物の1/2~2/3しか吸収できていないと考えられています。そのため、体調に合わせて栄養豊富な食べ物を食べましょう。
たんぱく質
例:魚、鶏肉、牛肉、豚肉、卵、豆腐、乳製品(乳糖で下痢する方以外)など。
糖質
繊維質の少ないものを食べましょう。
例:ごはん、食パンやロールパン、ジャガイモ(皮なし)、うどん、パスタ、クラッカーなど。
脂肪
効率的なエネルギー源なので、適度に使用しましょう。
例:植物油、バター、マーガリン、マヨネーズ、フレンチドレッシングなど。
カルシウム
カルシウムを多く摂取することで、尿路結石、骨粗鬆症の予防になります。
サプリメントで摂取してもよいでしょう。クエン酸カルシウムを原料とするサプリメントの方が、炭酸カルシウムよりも吸収率が高くなります。医師や管理栄養士に相談してください。
その他のビタミン・ミネラル
中心静脈栄養(TPN)をされている方は、TPNにビタミンや微量元素が含まれます。TPNをされていない方は、総合ビタミン・ミネラルのサプリメントを摂取した方がよい場合があります。サプリメントは、液体やチュアブル(口の中でかみ砕いて溶ける形状)の方が吸収しやすいでしょう。医師や管理栄養士にご相談ください。
水溶性食物繊維
水溶性食物繊維は便の性状を改善する可能性があります。また、結腸がある方は、結腸で発酵されてエネルギー源となります。水溶性食物繊維は野菜や果物に多く含まれます。軟らかい果物や、軟らかく調理した野菜を食べましょう※。粉末の水溶性食物繊維も市販されています。
※シュウ酸を多く含むものは食べる量を減らしましょう(結腸が残っている方)
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短腸症候群(SBS)では、状態が安定していても食べた物の1/2~2/3しか吸収できていないと考えられています。そのため、体調に合わせて栄養豊富な食べ物を食べましょう。
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避けた方がよい食べ物はありますか?
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砂糖がたくさん含まれるお菓子や飲み物、果物ジュース、はちみつ、シロップなど
一度にたくさんの砂糖を摂取すると、腸の中の浸透圧が高くなり、下痢を起こしやすくなります。砂糖以外の甘味料では、キシリトールやソルビトールは下痢になりやすく、アスパルテームやサッカリンは下痢になりにくいと言われています。加工食品を食べる時は、原材料表示を見て、下痢しやすい甘味料が含まれていないか確認しましょう。
繊維質が多く消化しにくい食べ物
キノコ類、海藻類、皮がついた豆類、野菜・果物の種や皮、ドライフルーツ、ナッツなどは消化が悪いので、症状に応じて、食べるのを控えるか、量を減らしましょう。野菜は生で食べるよりも、皮や種を取り除いて加熱調理した方が消化しやすくなります。
乳製品(乳糖で下痢が悪化する方のみ)
乳糖で下痢が悪化する方は、乳製品は控えた方がよいでしょう。牛乳が飲めなくても、チーズやヨーグルトなら食べられる方もいらっしゃいますし、乳糖を分解した牛乳も市販されています。乳製品はたんぱく質やカルシウムが豊富な食品なので、症状が悪化しない場合は摂取することをおすすめします。
シュウ酸を多く含む食べ物(結腸が残存する患者さんのみ)
結腸がある患者さんの場合、結腸から過剰にシュウ酸が吸収され、尿路結石の原因となります。シュウ酸を多く含む、ほうれん草、たけのこ、さつまいも、レタス、ブロッコリー、セロリ、なす、バナナ、チョコレート、ナッツ類、コーヒー、ココア、緑茶、紅茶などは、食べる量や回数を減らしましょう。カルシウムは腸の中でシュウ酸と結合し、便と一緒にシュウ酸を体外に出す働きをするため、尿中のシュウ酸の量が減り、尿路結石予防に役立ちます。積極的にカルシウムを摂取しましょう。尿が濃くなるのも尿路結石の原因になりますので、1日1200mL以上の尿(成人の場合)が出るように水分摂取を心がけましょう。
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砂糖がたくさん含まれるお菓子や飲み物、果物ジュース、はちみつ、シロップなど
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短腸症候群(SBS)での食べ方の工夫などはありますか?
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一度にたくさん食べるのではなく、少なめの食事で回数を多く(1日に6~8回)食べましょう。少量の食事を回数多く食べる方が、腸に与える負担が小さいため、下痢などの症状が軽くなり、消化吸収もよくなります。
よくお腹が空くことも短腸症候群(SBS)の症状のひとつですが、あわてず、ゆっくり、よく噛んで食べましょう。よく噛むことは、消化を助けるうえでとても重要です。
また、食べた直後にトイレに行きたくなったり、ストマからの排液が増えたりすることが多いです。患者さんによっては、外出前には食事を控えるなど、食事のタイミングを工夫されている方もいらっしゃいます。
食事中の水分のとり方はこちらも参考にしてください。
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一度にたくさん食べるのではなく、少なめの食事で回数を多く(1日に6~8回)食べましょう。少量の食事を回数多く食べる方が、腸に与える負担が小さいため、下痢などの症状が軽くなり、消化吸収もよくなります。
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どのような飲み物を飲むのがよいですか?
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水・お茶・コーヒー・ジュース・アルコール飲料・スポーツ飲料・炭酸飲料などは、浸透圧が低すぎる、または高すぎるために、下痢の原因になることがあります。症状に応じて、飲むのを控えるか、飲む量を減らしましょう。
経腸栄養剤、濃厚流動食について
食事だけでは栄養量が不足する場合に、経腸栄養剤や濃厚流動食を飲むよう指導されることがあります。経腸栄養剤や濃厚流動食は浸透圧が高い製品が多いので、できるだけ浸透圧が低い製品を選びましょう。栄養剤は一口ずつ時間をかけて飲む方が下痢になりにくく、吸収もされやすくなります。
経口補水液について
脱水になりやすい患者さんや、水やお茶を飲むと下痢をする患者さんには、経口補水液をおすすめすることがあります。経口補水液は、水やお茶よりも腸が水分を吸収しやすい組成になっていて、ドラッグストアなどで販売されています。特に空腸ストマの方には、ナトリウム濃度が高い(90mEq/L)経口補水液が推奨されていますが、残念ながら日本ではそのような商品はありませんし、あったとしても塩辛くてとても飲みにくいです。ですから、製品表示を確認して、ナトリウム濃度が比較的高めの経口補水液(50mEq/Lの製品が市販されています)を選び、一口ずつ時間をかけて飲みましょう。
市販品とは少し組成が変わってしまいますが、経口補水液は手作りすることもできます。経口補水液のレシピ(例)
水:1,000mL
砂糖:30~40g
塩:3g
あれば果汁(レモンやグレープフルーツ):少々(香りづけです)
※作り置きは避けて下さい。豆知識【浸透圧とは・・・】
浸透圧とは、水を引き寄せる力のことです。水の中に小さな粒子がたくさん溶け込んでいるほど、浸透圧は高くなります。
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水・お茶・コーヒー・ジュース・アルコール飲料・スポーツ飲料・炭酸飲料などは、浸透圧が低すぎる、または高すぎるために、下痢の原因になることがあります。症状に応じて、飲むのを控えるか、飲む量を減らしましょう。
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水分をとるときに気をつけることはありますか?
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食事と一緒にたくさんの水分をとると、食べたものが一気に腸に流れ込み、十分に消化することができなくなります。食事の時に飲む水やお茶は、コップ半分くらいにとどめておきましょう。
水分は食事とは1時間以上時間をずらして、一口ずつ時間をかけて飲みましょう。
また、極端に熱い飲み物や冷たい飲み物は控えましょう。飲み物の選び方は、こちらも参考にしてください。
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食事と一緒にたくさんの水分をとると、食べたものが一気に腸に流れ込み、十分に消化することができなくなります。食事の時に飲む水やお茶は、コップ半分くらいにとどめておきましょう。
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一丸先生からのメッセージ
短腸症候群(SBS)の患者さんたちは、もともとの体質、腸を切除する原因となった病気、切除した部位や長さ、切除してからどれくらいの期間がたったか、静脈栄養や経腸栄養を行っているか、食べ物の好き嫌い、生活スタイルなど、さまざまな点で一人ひとり違います。ですから、おすすめできる食べ物や食べ方も、本当は一人ひとり違うのですが、ここでは、短腸症候群の方の一般的な食べ方について説明します。
みなさんのお腹の調子が一番わかるのは、みなさん自身です。術後は不安でいっぱいだったのに、徐々に「自分に合う食べ方」を習得される患者さんがたくさんいらっしゃいます。ここで紹介している内容をふまえながら、ご自身の体調をよく観察して、「自分に合う食べ方」を見つけていきましょう。